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深雪さん(仮名)

アメリカ西海岸在住。1930 年生まれで栃木県出身。きれいな白髪で背筋のピンと
伸びた上品な雰囲気を持つ女性。深雪さんのお住まいの日本人や日系人の高齢者用レ
ジデンスの共有スペースでインタビューを行った。

◆海外生活とことば できますからね。あと英語、広東語、
まず香港に行きました。というのは、 北京語、子どもたちはみんなできます。
主人が香港人で、中国人でして、九州 私の家族で一番語学が下手なのは私
大学工学部に入学してまして、そのと なんです。孫から電話きても英語でし
きにわたくしが武蔵野赤十字病院の ょ。ベラベラなんて言われても、はあ、
看護師をしていました。そのときに主 なんて感じでね。語学っていうのは本
人が入院してきて知り合って、結婚と 当に難しいですよね。日本語で精一杯。
いう道を選んで、香港に行きました。 それを覚えるのは大変なエネルギー
香港に 30 年以上住んでいました。 を消耗します。
それからシンガポールに 5 年ぐら なかなか日本人は度胸がないね。自
いいました。それでまた香港に帰って、 分から入り込んで話そうという、そう
それでアメリカに来たわけです。点々 いう度胸とか頑張らなければならな
としたようなことです。それまでいろ いという思いがちょっと欠けている
いろありまして、子ども 3 人男の子い ところがある。ですからここに住んで
ます。みんな 50 過ぎてます。 いる人も英語がベラベラという人は
長男は九州大学で生まれました。次 あまりいない。語学の点においては難
男が香港、三男がシンガポールで生ま しいね。日本人で英語のできない人も
れました。国籍は全然別ですけども、 たくさん住んでいますから。だから語
中国人としての・・・中国人です。 学っていうのは小さいときからしっ
私は広東語を話します。北京語は難 かり勉強していないと難しいもんで
しい。広東語は香港で生活していたか すね。いつもコンプレックスを感じて
ら。ただ主人が日本語べらべらなもの います。買い物とか日常生活の簡単な
ですから、日本に長かったから、大学 ことはできますけど、複雑なことにな
卒業してからも造船所に勤めてて、日 るとね。
本語がとても上手なものですから、私 私はクリスチャンなので、ここのお
は力を入れて勉強しようという気持 向かいにあるチャーチに行ってるん
ちがなかったですね。子どもとはみん ですけど、そこには日語部がある。英
な日本語で話します。みんな日本語は 語部より日語部のほうが人が多い。日
語部は集会とか礼拝や勉強会、全部日 るために、ある程度苦労しました。将
本語でやってます。 来子どもたちの中で誰か日本語でき
ここ(日系高齢者用レジデンス)でも、 なかったら、私が困るわけです。子ど
みなさん日本語お話になるでしょう。 も達とのコミュニケーションが取れ
なくなっても困るし、もし何かあった
◆家族とことば ときに誰かひとりできないと困ると
日本を離れて苦労したことは、こと 思ったんですよ。だから一人だけでも
ばですね。生活の環境が違いますから、 しっかりした日本の教育を受けさせ
それも大変でしたね。でも苦労したと たいという思いがありましたよね。こ
いうことはあまりない。家族がみんな とばだけではなくて、子どもの将来を
ある程度、
(夫の)両親とも北京大学を 考えたときに、日本のことを分かって
出ていましたから、いい環境に恵まれ いて、日本で仕事ができたらそれもい
ましたから。
(夫の)父親っていうのは いなと思いました。私の家族がいるし
家の中に入るときも靴を履いて、全然 ね、日本に。私が行ったり来たりでき
靴を脱がない。いつもキリッとしてい ますでしょ。私の家族とのコミュニケ
ました。 ーションもできるしね。
次男は亜細亜大学で日本語を1年 私は今、家族とは言葉の点において
勉強して慶応大学に入りました。長男 不自由なところがないもんですから、
は日本に連れて行ったんですけど、ち 家族の中で頼り切っちゃっているよ
ょっと雰囲気が合わなかったんです うな。息子たちにね。
ね。それで中国の大学に行きますとい
うことで台湾の成功大学に入れまし ◆安定と安心と
た。自分が中国の大学を選びたいとい この 10 年、日本には帰っていませ
うことで。三男はここアメリカの大学 ん。
に入れました。だから一応みんな大学 日本には帰る予定はないですね。も
はきちっと出ています。 うここの市民権取ってますから。日本
そして日本語もなるべく忘れない には帰っても兄弟はみんな年取って
ように。私が英語ができなかったら非 ますからね。両親もいないし、実家の
常に困りますから。主人とずっと日本 跡取りももう天国ですからね。だから
語で話してましたから、子どもたちも 孤独ですよ。ただこっちに3人子ども
日本語忘れたら私が困りますからね。 がデンと家庭を持って、いい仕事に恵
みんな日本語に長けていたところが まれて、三男坊は自分で会社持ってち
あったんですよ。だからみんな日本語 ゃんとやってますからね。長男はこっ
をよく話します。私が国際結婚してい ちのU elect(仮称)の、アメリカがU
elect を買って、こっちでやってるん
です。ものすごく大きい会社で、そこ
で部長級の仕事してますから。私自身
は安定はしてないんですけど、子ども
たちはみんな安定してますし、まだ母
親としての責任はあるし。生きている
間は母親として誰でもあるよね。
それは日本人ですから、日本が恋し
いですよ。お月見あれば、日本はどう
なんだろうとか思いますよ。日本を捨
てたという人の考えは私には分から
ない。やはり日本人は日本人です。ど
んな困難があっても。日本人としての
精神は忘れたくない。苦労しています
から。日本はみんな恋しいです。
ただ、みなさん英語がベラベラとい
う中でも、ここは日本語通じますから
ね。安心して話しできますけれども、
これが英語ばっかりの中に入っちゃ
うと難しいし、話せません。ここ(日
系高齢者用レジデンス)に住んでいる
っていうことで安心しています。教会
近いし、みなさんと話せるし。やっぱ
り人間対人間の会話っていうのはと
っても大切だと思うんですよね。

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